わたしが今海外で暮らしている不思議

ほんの15年程前、さほど遠い昔の話ではないのです。


当時住んでいた下北沢のアパートには猫の額ほどのベランダがありました。しかも、ベランダに出るとお隣さんの窓に手が届きそうな距離感で。


ある日、その小さなベランダで洗濯物を干していた時のこと。洗濯物を物干し竿に引っ掛けようと上を見上げたら、わたしの手と洗濯物の向こう側、うちの屋根とお隣さんの屋根のその先にはきれいな青空が広がっていて、そこに白い飛行機がスーッと小さく横切ったのです。そしてその時、「あ、わたし、あれに乗って世界に行きたい」と妙に強く思いました、稲妻のように。


それから程なくしてわたしは転職をし、その仕事が大学卒業時からのなんとも長い(と感じていた)社会人生活を経てようやく辿り着いた天職か!と思えるような仕事で、夢中になってこなすうちにどんどんと海外案件を任されるようになり、あっという間に二ヶ月に一度はアメリカやヨーロッパへ出張する生活がはじまりました。


その後わたしはその職場でマネージャに昇進します。当時の自分がマネージャとしての器があったかは甚だ疑問ですが、プレイヤーとしては無敵、と少なくとも自分ではそう思っていました。日本にいる間はマネージャとしての才覚のなさに悩み、海外出張に出るとプレイヤーとして水を得た魚のように現場をまとめ、そうやって日常的に海外出張をこなすうちに、海外にいる時の自分の方がなんだかしっくりくるなという感覚を覚えるようになってゆきます。


英語がすごく得意だったわけではありません。仕事で使える程度の英語力はあったけれど、最終的にハワイへの移住を決めた理由のひとつが「英語コンプレックスを克服したい」だったぐらいで、当時は自分がマネージャを務める部署のスタッフは自分以外はみな英語圏在住経験者で、そんな環境下で英語にはちょっとした苦手意識さえありました。


それでもとにかく身体では「海外の方が自分らしく居られる」と感じ続けていました、海外出張のたびに。


下北沢のアパートの小さなベランダで感じた稲妻と、海外出張のたびに感じ続けていた身体感覚。この延長線上に今現在のポートランドで暮らす自分がいるなぁ、と感じます。


わたしの場合、「海外への衝動(稲妻)→海外に暮らしたいという気持ち、現実への違和感(身体感覚)→実際の海外移住(現実)」までが10年ほどの時間の流れの中で起こりました。最初は点だったものが、徐々に線となり、最終的に形になっていった感じです。


もっと長い時間をかけて現実となっていく場合もあるでしょうし、もっと短期間のこともあるでしょう。思いを叶える秘訣はと聞かれればそれは、瞬間的な衝動だったり、長期的な違和感だったり、いずれもとても感覚的な自分自身の中に生じる「揺れ」に敏感になっておくこと。その「揺れ」が一体何を意味するのかすぐには分からなくても、一応ずっと心のどこかで燻ぶらせておくこと。そうするといつの時かその燻りに火が灯る時がやってくるので。


当時はわたしもまさか10年後にアメリカに移住しているなんて思ってもいなかったし、何をどう形にするかなんて考えてもいなかったけれど、でも心の燻りは消さずに敏感に感じ取っていたように思うのです。


誰かがマッチで火を灯してくれるかもしれないし、どこかから火の粉が舞ってくるかもしれない。そんな時、自分の中でずっと燻っていた箇所に一気に大きく火が灯るイメージです。舞ってきた火の粉に気付かなかったり、グズグズしているうちに雨が降ってきたら火は消えてしまいます。一気に燃え上がらせて炎をエンジンに替えるためにも、燻りは大事な準備期間なのです。


わたしもハワイ移住の話が舞ってきたとき、「やっと出会えた天職と思えるような仕事を辞めてしまっていいのか?」「元夫は英語が一言も話せないけれど大丈夫か?」「猫は病気持ちだが飛行機に乗せていいのか?」等々考えればキリがないほどの不安材料はありましたが、灯った火が大きかったため、鎮火することなく炎をエンジンに替えてハワイへと飛び立つことができました。


まだハワイ移住の「ハ」の字も自分の中に存在していなかった頃、出張でサンフランシスコに行きました。その出張先のディナーの席で、同僚にこう言ったのを覚えています。


「なんかわたし、海外にいる時の方がのびのびして居られるっていか、自分らしく居られる気がするんだよね。だからいつか海外に住めたらいいな、って思うの」


あの時のその言葉は、現実となりました。

2件のコメント

  • 自分の衝動に正直に生きてきた、それも場当たり的ではなく10年もの時間をかけて実現させたことは素晴らしいことだと思います。
    手に入れた伸び伸びできる環境での生活を大切に、そして丁寧に過ごせるといいですね。
    Life is too short !
    最近読んだ本にあったフレーズです。

    • Life is too short! そして You only live once! これはいつもどこかで思っていることかもしれません。一度しかないこの人生、後悔のないように生きたいですよね☺

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