夕焼け新聞12月号掲載『新しい大地の上で』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2021年12月号に掲載されたコラムの全文です。

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ハワイ島東側の玄関口であるヒロの街を訪れる方の多くが目当てにされるであろう場所、ハワイ火山国立公園。わたしも過去に観光でハワイ島東側を巡った際はこの火山公園を中心に旅程を組みました。

ハワイ島は5つの火山から成る島で、そのうちの4つが活火山として分類されています。その中で最も若く今現在最も活発な火山が島の南東部に位置するキラウエア火山。このキラウエア火山と、地球上で最も体積の大きな山として知られるマウナ・ロア山をまたぐ広大な敷地をハワイ火山国立公園は有しています。公園内には複数のトレイルがあって、ハワイ島へ越してからは年間パスを入手して頻繁に訪れてはハイキングを楽しんでいます。そこでは溶岩台地の上を歩いて真新しい大地を感じることも、その周りの森を探索することもできます。これらの森は溶岩大地から生命が芽生えて生まれた新しい森であったり、溶岩が流れなかった場所にとどまった古い森であったり。このように公園内は、新しいエネルギーと古いエネルギーが入り交じる場所でもあります。

噴煙を上げるハレマウマウ火口、手前には森が広がる

今現在も活動中のキラウエア火山ですが、2018年の噴火の際はハワイ島南東部プナ地区の住宅街レイラニエステートから溶岩が噴出し、住宅700棟以上が崩壊。人々の暮らしが溶岩に飲まれ、溶岩の下に埋もれてしまいました。先日、レイラニエステートから目と鼻の先にあるIsaac Hale Beach Parkを訪れました。2018年の噴火で溶岩が流れ出て海へと流れ着いた、まさにその場所です。ハワイ島南東部の海沿いに位置するこの公園、噴火以前はのどかなビーチパークだったのだと思いますが、現在は公園内の車道や歩道いたるところが溶岩で行き止まりになっていました。公園内のあちらこちらにうず高くそびえる新しい溶岩からは、もうすでにシダのような植物が芽を出していました。つい3年ほど前までは海だった場所に溶岩が流れ出て固まり、そこは新たな大地となって今では溶岩と溶岩の隙間から命の芽が這い出ているその力強さ。渦巻くエネルギーに圧倒されました。

溶岩で行き止まりとなったIsaac Hale Beach Park内の車道

2018年の噴火以降も小さいながら噴火はとぎれとぎれに続き、今現在もハレマウマウ火口からは噴煙が上がっています。このように、ハワイ島では今まさに活動中の火山のすぐ隣で我々は日々の暮らしを営んでいます。冒頭で述べたように5つの火山から成る島、言ってみれば島全体が火山なのだから、この島に暮らすということ自体が火山の一部に暮らすということ。一般的に噴火というと真っ先に「怖い」もので「避けたい」もの、と考えるのではないかと思います。もちろん溶岩は民家を焼き尽くす恐ろしいものに違いはないのですが、この島の人々の火山や溶岩そして噴火活動に対する捉え方はそこにとどまりません。

先ず、噴火に対する知識の違いがあります。島の人々は火山のことも地形のこともよく理解しています。一概に噴火といってもレベルも様々であれば、溶岩の種類や流れ出るスピードも火山各に異なります。キラウエア火山から流れ出る溶岩はドロドロとゆっくりとした速度で流れ出る溶岩で、世界で一番安全な活火山とも言われているほどだそうです。たとえ溶岩の噴出が始まったとしても避難できるだけの時間があり、また勾配によってある程度は溶岩の流れを予測することが可能なため活動中の火山とはいえ必要以上に恐れる必要はない、ということです。更に、そういった知識以上に感じるのはこの島に暮らす人々の火山や噴火に対する見方、捉え方、もっといえば精神構造の違いです。

最も重要なのは、ハワイ先住民にとって噴火とはキラウエア火山ハレマウマウ火口に住むと言われる伝説上の女神ペレの創造的な活動であって、単に破壊的なものとしてだけではなく創造的なものとしても捉えられてきた、そしてその考え方は今現在もハワイに生きる人々の根底に引き継がれている、という点です。これは、我々の力の及ばないところ、自然の力に対する畏敬と崇拝の念の現れとも言えます。「ペレがこの地球上に新たな大地を作っている、噴火によって大地が広がっている」と考えると、確かに噴火は「破壊」というネガティブなものから「創造」というポジティブなものへと一変します。さらに言えば、新たなものを生み出す「創造」のためには既存のものを打ち破る「破壊」が必要、とも言えましょう。そもそもハワイ諸島すべての島が噴火によってできた島々(大地)です。古い順にカウアイ島、オアフ島、モロカイ島、マウイ島、ラナイ島と続き、そして今現在も噴火活動を続け新たな大地を作り出している最も若い島、ハワイ島。そんな、現役の大地製造局とも言えるハワイ島にわたしは今暮らしているわけです。

2021年という年も、コロナ渦による規制と新しい日常への移行が続いた一年でした。新規感染者数は減ってきたとはいえ、コロナショックによって既に人々の行動や意識には変化が起こっています。人間の力の及ばないところでこれまでの常識が一気に覆された(破壊された)わけですが、これも「破壊」ととるか「創造」ととるか。繰り返すようですが、破壊は即ち新たな創造でもあり得ます。噴火によって流れ出た溶岩と溶岩の隙間から小さな生命が力強く芽吹いているように、新たな年、我々も力を振り絞って新たな大地から芽を出し花を咲かせたいものです。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。

溶岩と溶岩の隙間から芽吹くオヒアレフア

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はボストン出身の夫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬、ローカルボーイの子猫2匹と共にハワイ島ヒロ在住。ブログhttps://chisakolife.comにてハワイ島の暮らし、国際結婚、犬猫との生活、自らの絵画制作などについて執筆中。

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