夕焼け新聞 新年特別号掲載『新年の抱負』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2022年新年特別号(2021年12月27日発刊)に掲載されたコラムの全文です。

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2021年が終わり、新たな年が始まろうとしています。2022年の幕開けに際し思うことは、2年間にもおよぶ新型コロナウィルスによるパンデミックの影響もあって、どことなく閉じ気味になってしまったようにも感じる自分自身の心を少しずつ外に向けて開放し自らの足でも外に出ていくような、そんな年にしたいなということです。もしかすると状況は違えど、同じようにどこか閉塞気味な気持ちを抱えていらっしゃる方も少なくないかもしれない、そのような方々へ届くといいな、と思い今月は新年特別号ということで2021年を振り返りつつ新しい年への抱負に思いを巡らせてみました。

コロナ禍にも関わらずメインランドからハワイ島への引越しは実現させたし、傍から見ると状況に関係なく動き回っているようなイメージで見ていただくことも多々あるのですが、暮らす場所は大きく移動したものの、わたし自身はこんなに長い時間を家で過ごすのは子供のとき以来、というほど圧倒的な時間を在宅で過ごす日々が続いています。夫とペットと共に過ごす家での時間を快適なものとし、花を植え、絵を描き、文章を書き、料理をし。これらはすべてそうしたいからしてきたことで、実際そんな中ぽつぽつと書いてきたブログがご縁で『夕焼け新聞』2021年2月号よりコラムの連載をスタートさせていただいたのでした。そのような恵みにも繋がった家で過ごす時間はわたしにとってかけがえがなく、これからも何よりも大切にしてゆきたい時間であることに変わりはないのですが、そのことと「自分自身の心を外に向けて開いていく」ということを両立させたい、というのが2022年のわたしの抱負です。そもそも「自分自身の心が少し閉じ気味だったかもしれない」ということに先ずは気付き、そんな状況や自分自身を「少し変えていきたいぞ」と思うようになったのは、それこそ急にそうなったわけではなくジワジワとなわけではありますが、振り返るときっかけのようなものはあったように思います。

今年(2021年)の4月、わたしは仕事で家を離れられない夫にペットの世話を任せ、一人ポートランド空港を出発しました。目的地はハワイ島。購入する物件を決めるのが目的という家探しの旅です。エリアはハワイ島最大の街であるヒロに絞り、めぼしい物件も事前にリアルターさんに伝えてあったため家探しは順調に進み、思っていたよりも早く良い物件にオファーを入れることができました。家探しのミッションを無事完了したことで、残りの時間でわたしはハワイ島の北側に位置するホノカアという小さな町を訪れることにしました。映画『ホノカア・ボーイ』の舞台となった町、以前ハワイ島を訪れた際に友人と車で立ち寄ってランチを食べた町です。ノスタルジックな町並みがたまらなく心地良かったという印象でもう一度ゆっくり訪問してみたかったし、目当ての場所もありました。それは、ハマクア浄土院。ハワイ州で最初の日本仏教寺院です。ホノカアはその昔(1800年代後半から1900年代前半にかけて)さとうきび産業で栄えた町。日本からも多くの移民が海を渡ってホノカアの町にやってきました。そんな中、ハマクア浄土院は1896年にホノカアからほど近いパアウハウ ( Pāʻauhau ) 地区に建立され、日系人の心の拠り所として親しまれてきたお寺なのだとか。このお寺の墓地には日系移民一世が眠っています。

ヒロからホノカアは車でたっぷり1時間、美しいハマクアコースト沿いの道路を右手に海を眺めながら一路北上。前回訪れた際は通過地点でしかなかったホノカア、今回は少しじっくり味わいたくて一泊することに決めました。宿泊先は、ホテル・ホノカア・クラブ。町で唯一のホテルです。その日はホノカアの手前に位置するハマクア浄土院を先ずは訪れてからホテルにチェックインする予定にしていました。しかし、Google Map が示す通りに山道に入ってお寺を目指すも、道はどんどん先細りに細くなる一方の未舗装路。すぐそこまで来ていることは分かるのだけれど、これ以上進んで引き返せなくなることが怖くなり結局お寺へは辿り着けないままホテルへと向かいました。

ホテルに到着すると、玄関先のステップを上がったところに置かれた小さなテーブルでオーナー夫妻が仲良くランチを食べていました。自己紹介を済ませると、奥様がホテルの中を案内しながらお部屋まで付き添ってくださいました。どうやらその日の宿泊客はわたし一人の様子で、遠くに海が見える一番いいお部屋に案内されました。前述した通りホノカアはとてもノスタルジックな町なのですが、ホテル・ホノカア・クラブも田舎のおじいちゃんおばあちゃんのお家へ遊びに来たかのような懐かしさを感じさせるホテル。必要最低限のものがきちんと揃い、とても心地の良い空気がゆっくりと流れていました。ご夫婦にホテルの歴史やホノカアの町のことを教えてもらい、ぶらぶら町を歩いて近くのレストランで早い夕飯を済ませるともうやることはありません。結局その日の晩はホテルのオーナーご夫婦との世間話が続きました。天体観測(というよりも星を見ること)が大好きという奥様の提案で、暗くなると折畳み椅子を駐車場に運び出して二人で夜空を見上げ星座を教えてもらいました。こんな風に星空を見上げるのなんていつぶりだろう、と思いましたが、それは単に星空を見上げるのが久しぶりだったというよりも、ほんの数時間前に出会った人とこうやって駐車場に椅子を並べ、夜風に吹かれながら一緒に星空を見上げているということ自体が本当に久しぶりの感覚で妙にくすぐったく、そして嬉しかったのです。

ホテル・ホノカア・クラブ

次の日。ニワトリの声で目を覚ますと、コーヒーを求めにコンビニへ。朝食は付いていないと聞いていたので菓子パンも買ってホテルに戻りました。しかし戻ると奥様は大きな食堂をわたし一人のために開け、パンにピーナッツバターを塗ってバナナのスライスを載せたものを用意してくださいました。もちろんコンビニで買った菓子パンは食べずに、ありがたくピーナッツバターバナナトーストをいただきました。そして前日ハマクア浄土院にたどり着けなかった話をすると、なんとご夫婦で引率してくださると言うではありませんか!大変に有り難いご提案ではありましたが、ご夫婦の他にホテルのスタッフらしき方の姿は滞在中一度も見ることがなかったため「チェックインされる方とかいませんか?大丈夫ですか?」とお尋ねすると、「1時間ぐらい外しても大丈夫。でもあなたが往復運転してね」ということで交渉成立。ご夫婦を乗せた車でハマクア浄土院へと向かったのでした。海が見渡せる丘の上に建立されたお寺はとても立派で、お庭にはみかんの木がたくさん植わっていました。日系移民一世の方々の眠るお墓へも手を合わせ、お墓で写真を撮るのもどうかと思いましたが3人で記念撮影などして無事ホテルへご夫婦をお送りしました。

ハマクア浄土院

ホノカアの町を後にし、帰路ハマクアコースト沿いの道路を今度はヒロへ向かって南へとドライブするわたしの心はなんだかとてもウキウキと弾んでいました。振り返ると、あのホノカアでの時間がわたしの心をだいぶ緩めてくれたように思うのです。緩んだことで見えてきた、少し閉塞気味だったかもしれないそれまでの自分の心と、心を開くことで巡り会える新しい出会いや風景があるということへの気付き。こういった時間や出会いを紡いでいくことが、わたしの2022年の抱負です。

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はボストン出身の夫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬、ローカルボーイの子猫2匹と共にハワイ島ヒロ在住。ブログhttps://chisakolife.comにてハワイ島の暮らし、国際結婚、犬猫との生活、自らの絵画制作などについて執筆中。

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