夕焼け新聞6月号掲載『3年ぶりの日本滞在記』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2022年6月号に掲載されたコラムの全文です。 ********************************* ***********

コロナウィルスによる全世界的な渡航規制が始まった2020年初頭から長かった時を経て、ようやく開いた日本帰省への扉。2022年3月末、満開の桜が咲き誇る東京へ約3年ぶりの帰省を果たすことができました。

日本入国のための準備も抜かりなく行い、入国前に検疫手続きの一部をアプリで事前に行うことができるということでもちろんしっかりと入力を済ませ、緑色の画面(すべての事前登録と審査が完了している状態)を入手してハワイを出発。

満開の桜(東京)

成田空港へ到着すると、まずは検疫所のスタッフの数の多さに驚きました。飛行機から降り立った我々乗客は寝起きの疲れた面持ちでぞろぞろと長い廊下を同じ方向へ進み、しばらく歩くとスタッフに止められ廊下に用意された簡易椅子に座って待機。その後またしばらく歩いて待機、手続きして歩いて待機、手続きして歩いて検査して待機。こんな具合に、「事前登録も済ませて緑色の画面もゲットしているからきっとスイスイ素早く済むだろう」というわたしの甘い期待は期待外れに終わったのでした。

それでも、乗客の大多数がきちんと言われた通り流れに沿って動いてくれる国民性だからこそ可能なオペレーション。これだけ複雑なオペレーションが可能な国というのは世界中でもそうないだろう、と到着早々に日本へ帰ってきたことをひしと感じずにはいられない体験となりました。

日本の水際対策の徹底ぶりにただただ感心しつつ、着陸後約3時間を経て晴れて成田空港から東京の街へと外に出ることができました。

そんなこんなで始まった日本滞在、しばらくぶりの帰省だったことも手伝い改めて感じた日本の凄さ、素晴らしさはたくさんあれど、特筆すべきはやはり季節を感じる食文化の豊かさ、身近なところではスーパーに並ぶお野菜の美しさ、そしてもう一つはマッサージのお安さ!と言うとあまりに卑近でしょうか。でも事実なので仕方ないですね。

ハワイの相場と比べるとマッサージの平均価格は軽く半分以下の印象です。円安も手伝ってこれはもうマッサージ受け放題!とまではいきませんが滞在中何度か足を運びました。

大満足でマッサージが終了した後に「そうか、チップあげなくていいんだ」と一瞬確かに嬉しい気がしたのですが、どことなく何かが足りない感触。チップというのは心付けなのだな、ということを改めて実感したのでした。

チップ、それは気持ちをのせるもの。それがサッパリないとなると、自分のこの気持ちをどこにのせたらいいのか、気持ちをのせる手段がない物足りなさ。初めて味わう感覚でした。

両親と行った天ぷら屋さん、カウンター越しにいただいた揚げたての天ぷらの美味しさも忘れることができません。ここでもまた、目の前から次々に芸術的な天ぷらを揚げては皿に載せてくださった板前さんに「チップ差し上げずにすいません」と感じたものです。

チップというのは、サービスを受けた側がその金額を自分で決めるもの。個々人の自由に委ねられた「余白」の部分とも言えます。そこが「ある」と「ない」とでなんだか自由を奪い取られたような窮屈さが自分にはあるのかもしれません。

個人の自由と選択の余地を残してくれている、逆に言えば自らきちんと意志を伝えることが様々な場面で要求されるアメリカという国はやはり自分には合っているのだなと再認識。

かたや日本では人々はルールに従って動くのが基本で、あまり個人がごちゃごちゃと主張してこない。だからこそあの成田空港での素晴らしいオペレーションが可能なのだろう、とマッサージや天ぷらを堪能しながら深く納得したのでありました。

日本に住んでいた頃は感じませんでしたが、アメリカから久しぶりに日本へ帰省して今回、スーパーに並ぶお野菜の美しさも特筆すべきと感心しました。聞くところによると日本では不細工なお野菜や少し痛みかけのお野菜についての悪評が一人のお客様から出てしまうと、一気に口コミで広がって売上に大きな影響が出るため、ひとつたりとも見劣りのするお野菜は商品棚に置けないのだとか。

真相はどうかわかりませんが、ある程度あり得る話かなとは思います。評判がすぐに広まるのは日本に限らないことだと思いますが、その評判に人々が左右されがち、というのはアメリカと比べて日本の方がより大きい傾向にあるかもしれません。

そういう意味で言うと、アメリカはスーパーに置かれているお野菜もまた個性的というか不細工な子はもちろんいますし、たまにはちょっと腐った子も混じっていますが、そんなお野菜を買ってしまったとしたらそれは買った(選んだ)自分の責任。

均一に揃ったサービスと商品を受け取れる日本式、ちぐはぐながらも個性的なラインナップの中から自分自身で選び取るアメリカ式。どちらがいいか、はその人次第。久しぶりに日本へ帰ると色々なことが新鮮に目に映るものです。

最後に、滞在中にいただいた春のお味といえば、たけのこご飯、ふきのとうの天ぷら、ホタルイカの酢の物、菜の花のおひたし、桜餅・・・。今思い出しても嬉しさで顔がほころぶ春の食材を存分に堪能して参りました。

つまり、どれだけチップをあげないでいいマッサージに物足りなさを感じようと、スーパーに並ぶ美しい野菜たちに少なからず辟易しようと、舌はいつまでたっても純粋日本人であることに喜びを感じるのであります。

次日本に帰省したら何を食べよう、と楽しい妄想はすでに始まっています。

日本の春の味

※成田空港での検疫等の様子は、筆者が日本へ帰省した2022年3月末時点の状況です。

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はボストン出身の夫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬、ローカルボーイの子猫2匹と共にハワイ島ヒロ在住。https://chisakolife.com

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