夕焼け新聞3月号掲載『春はもうすぐそこ』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2021年3月号に掲載されたコラムの全文です。

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週に一度買い出しに行くスーパーの園芸コーナーが急にガランと寂しくなったのは、シャツの上から羽織るジャケットが欲しくなって、ハロウィンに向けた大きなカボチャが店頭に陳列され始めた10月初旬のことだったでしょうか。

わたしは東京出身ですが、2019年末にポートランドに越してくる前はハワイ、そしてカリフォルニアに暮らしていました。今までに住んだどんな場所でも、こんなにも見事に園芸コーナーから植物が消え去る光景をこれまで見たことがなかったのでかなり衝撃でした。

春から夏にかけてはあんなに色とりどりの花々が所狭しと並べられ、屋内の売り場だけでは収まらず屋外パーキングの一角にまで園芸コーナーが拡大して人が溢れかえっていたというのに、急にこんなに何もなくなってしまうとは!その引き際があまりにも見事で、思わず感心してしまったのです。温室で育てた花や植木で無理やり売り場を埋めようとしていない正直な感じに、とても好感を持ちました。

さて、引越してくる前に「ポートランドの冬は雨がしとしと降り続いて結構滅入るよ」という話を聞いてはいました。今年の冬はその噂が本当であったことを実感しています。新型コロナによる自粛生活も精神状態に影響しているのかもしれません。ポートランドの冬、とても長く感じます。

そんな中先日、スーパーの園芸コーナーでチューリップの苗を見かけました。未だ殺風景な売り場に、ポツンとその場所にだけ春の気配が舞い込んだような佇まいで、チューリップは品よくちんまりと並んでいました。そしてその時確かにわたしの心にもふわっと春の香りが漂ってきて、「あぁ、もう大丈夫。春はもうすぐそこ」という安堵感で満たされたのでした。

そうです。街を歩いていても、其処此処に緑色の芽がニョキニョキと地中から顔を出し、このコラムが皆さまの手元へ届く頃にはちょうど、街の色彩もグレーからピンク色に変化しはじめている頃でしょう。

昨年、わたしは初めてポートランドの春を経験しました。コロナが蔓延しだし、ステイホームが始まった頃です。心に不安はもちろんありましたが、街中に咲き乱れる花々の美しさに目も心も奪われました。あの時の感動を、わたしは一生忘れないと思います。

ポートランドの春。色とりどりの花、新芽が芽吹く木々からは力強いエネルギーが発されて、街全体がスキップしているかのような躍動感に包まれる春。こんな春を迎えるために、冬の間、何ヶ月にもわたって雨が降り続くのですね。

そんな素敵な季節はもうすぐそこ。スーパーの園芸コーナーが活気を取り戻すのももうすぐでしょう。今年は何の苗木をお庭に植えようか、今から楽しみで仕方ありません。

『Stay Home -Spring, 2020-』筆者画
2020年ポートランドで迎えた初めての春。新型コロナが蔓延しだしステイホームが始まる中、ポートランドの春の美しさに心を奪われて描いた作品。

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ、カリフォルニアを経て、現在は、ボストン出身の夫、日本生まれのオス猫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬と共にポートランド在住。ブログhttps://chisakolife.comにて、ポートランドの暮らし、国際結婚、犬猫との生活、自らの絵画制作などについて執筆中。

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