夕焼け新聞3月号掲載『フラという踊り』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2022年3月号に掲載されたコラムの全文です。

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わたしは学生の頃から踊ることが好きで、これまで様々な種類のダンスに挑戦してきました。高校時代のチアにはじまり、かじった程度を加えればバレエ、ジャズダンス、モダンダンス、ベリーダンス、フラメンコ、社交ダンス、キューバンサルサ、そしてハワイのフラ。エアロビクスやズンバも大好きです。これらの中でとてもとても惹かれはするのだけれど深く入っていくことがなかった踊り、それがフラです。

わたしが暮らすハワイ島のヒロという街は、フラを習っている方であれば恐らく知らない方はいないであろう、世界最高峰のフラ競技会「メリー・モナーク・フェスティバル」の開催地でもあります。フラのオリンピックとも言われるフェスティバルが開催されるような街なのでさぞフラが盛んな街を想像していたのですが、実際に暮らしてみると表立ったフラスクールは一切見当たらず、コロナウィルス感染拡大も影響しているのかもしれませんが、フラのステージや練習風景にも今のところ遭遇したことはありません。


わたしがフラに感じる他のダンスから突出した一番のフラ的要素、それは集団性です。家族意識と言ってもいいかもしれません。フラでは自分が所属するお教室のことを「ハラウ」と呼ぶのですが、このハラウの一員であることをとても大事にします。ハラウのみんなで踊ること、みんなで衣装をそろえて、みんなでレイ(生花で作る飾り)を作って、みんなで一緒に舞台の準備をして、そこから生まれる団体の価値のようなもの。ハラウという団体の一員として振る舞うことの重要性は、日本でフラのお教室に通った時もそうでしたし、結婚式でフラを踊りたくて通ったオアフ島のハラウもそうでした。「ハラウ」はハワイ語で「(カヌーをしまっておくための)家」という意味もあるのですが、フラにとってハラウは単なるお教室ではなく家でもあり、その「ハラウの一員であること」という団体としての重要性をひしと感じさせる場になっています。 一緒に踊る仲間も単なる仲間ではなくオハナ(家族)と呼び合います。他の踊りでももちろん群舞はありますし、フラの群舞の方が他の踊りの群舞よりも一寸も違わず揃っているか、というと決してそういうことではありません。フラの群舞は手の角度など微妙にそろっていないこともよくあります。そういった「見える」部分ではない、より深い部分でフラのハラウからは非常に濃くて根源的な一致団結を感じます。最もわかりやすい例では、フラを習いはじめると自分の習っている先生以外の先生からはフラを習ってはいけないし、自分の先生以外の先生による振り付けで踊ってはいけない、というルールがあります。そう、フラは厳しい家制度に則っているのです。フラはこのように本来、師匠からハラウ内の弟子達へと内々に伝えられてきた踊り。それが、フラの本場であるヒロの街でフラハラウの看板や宣伝を一切見かけることがない理由のひとつなのかもしれません。

フラにはもちろん一人で踊るソロもあり、冒頭で述べた「メリー・モナーク・フェスティバル」でも女性ソロ部門は大会のハイライトとして観衆の注目を集めます。各ハラウの代表として選ばれた女性がカヒコ(古典フラ)とアウアナ(モダンフラ)をソロで踊り、総合最高点のダンサーがその年のミス・アロハ・フラに輝きます。ミス・アロハ・フラに選ばれることは世界ナンバーワンのフラダンサーである証、すべてのフラダンサーの憧れです。過去のミス・アロハ・フラの踊りはYouTubeなどで見ることができますが、美しさが内側から溢れ出ていてとにかく圧倒されます。しなやかに動く腕や腰、しっかりと大地にリズムを刻む足元、優雅に流れる視線、もちろんそれらすべてが圧巻なのですが、ミス・アロハ・フラに選ばれる女性の光り輝く姿には何か神がかったものを感じます。この美しさは一体どこから来るのだろう?と考えたときに、一人のダンサーという個を超えたところにあるハラウ全体の力が大いに作用しているようにわたしには思えます。ハラウの師を筆頭に、ハラウに所属する一人ひとり、全員が一体となってこそ彼女に力が与えられているような。全体が個を作り、個が全体を作っているような、そんなエネルギーが最高潮に達した人にこそ与えられる輝き、美しさが、ミス・アロハ・フラには宿っているように見えるのです。

「集団」と「個人」は時に対立的な表現もされますが、「個人」の集合体が「集団」であり、「集団」は「個人」なくして成り立ちません。ミス・アロハ・フラのインタビューからは、彼女がどれだけハラウのメンバーとして仲間と力を合わせ、師を敬い、同時に自己の研鑽を重ねてきたかが想像できるとても謙虚な人柄を感じることが多々あります。そういう姿を見ていると、やはり個の輝きというものは集団の中でこそ磨かれるものなのだなぁ、と教えられます。今日もヒロの街のどこかで、ダンサー達はフラのステップを踏んでいることでしょう。わたしも、いつの日かまたハラウの一員になる機会があるとしたらその時は、踊りの上達よりも何よりも先ずはオハナ(家族)と共に踊る喜びを感じながらフラを踊ってみたいと思います。

※メリー・モナーク・フェスティバル

毎年4月にハワイ島ヒロにて開催されるフラ競技会。コロナウィルスの影響で2020年は中止、2021年は延期の後6月に無観客にて開催(ネット中継あり)。そして2022年も既に一般向けチケットの販売はなしで開催されることが決まっています。

※写真提供

ハワイ島ヒロ在住、黒島健司Kenji Kuroshima氏撮影。メリー・モナーク・フェスティバルでの一コマ。Kenji氏のブログhttps://www.hula-hawaii.net/とお宿https://www.airbnb.jp/rooms/46385257

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はボストン出身の夫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬、ローカルボーイの子猫2匹と共にハワイ島ヒロ在住。https://chisakolife.com

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