夕焼け新聞3月号掲載『Hāmau(静寂)』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2023年3月号に掲載されたコラムの全文です。

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ハワイを訪れて真っ先に目指す場所と言えばやはり、どこまでも澄み渡った青い海の広がる美しいビーチでしょうか。そんなビーチももちろん素敵ですが、知られざるハワイのもう一つの顔として、ハワイのパニオロ文化があります。パニオロとは「スペイン語を話す人」という意味で、18世紀後半にアメリカ・カリフォルニアからハワイへと渡ってきたカウボーイのことを指します。私が暮らすハワイ島には標高4000メートル級の高い山々があり、その裾野には牧草地帯が広がっていて、そこでは今でもパニオロ文化が息づいています。

こちらのコラムにも以前掲載させていただきましたが、わたしはハワイ島へ引っ越してから乗馬のレッスンを受け始めました。レッスンを始めたばかりの頃はただただ楽しいばかりだったのですが、レッスンの会を重ね、最近は大きな壁にぶち当たっています。先生の馬はとてもよく調教された穏やかで賢い馬なのですが、初心者であるわたしのことを恐らく性格も含めて既に熟知しており、ズバリ「なかなか走ってくれない」という壁にぶつかっているのです。先生からは、「前に進む気持ちを馬に伝えて!」「馬ではなくあなたがリーダーシップを取って!」と言われるのですが、果たしてそれをどのようにやったらいいのかが分からないのが問題です。

前回のレッスン時、あまりに言うことを聞いてくれない馬の上からもう無理だとばかりに、先生にいくつか立て続けに質問を投げかけました。「足のどの部分をスクイーズしたらいいのでしょう?」「姿勢は?」「手綱は?」といった具合に。すると先生は「ちょっと馬から降りて」と言って、模範を見せてくださいました。もちろん、先生が騎乗した途端にもはや同じ馬とは思えないほどのキビキビとした動きを馬は見せ、先生は自由自在に馬を乗りこなします。そしてやはりまた、「前に進む気持ちをもっと出して、リーダーシップを取って」と同じことを言われてやっぱりそれができずに、その日は浮かない気分のまま帰宅しました。

後日、ポッドキャストでオアフ島在住の日本人クムフラ、ミイラニ・クーパー氏のハワイ語講座を聞いていた時のこと。ハワイ語の単語を毎回ひとつ取り上げてそれについての解説をしてくださる番組なのですが、その日のワードは ”Hāmau”「静寂」を意味するハワイ語でした。

そこでミイラニ氏は、「静寂」つまり「(声を出さずに)静かにしていること」はハワイアンの文化の中で大切にされている価値観のひとつである、と解説されます。そして面白い例えとして、ハワイでは学校などであまりにたくさん質問をする生徒は先生や周りの生徒たちから疎ましく思われることもある、と言うではありませんか!

ハワイの文化で何かを「学ぶ」ということは、まずはよく「見ること」「聞くこと」そして「真似をすること」。つまり、視覚聴覚をはじめ五感すべてを使って自らで感じ取って真似をする、それこそが「学ぶ」ことの本質とされているのだそうです。そのため、それ(自ら感じ取って真似をすること)を怠ってすぐに先生に質問をしてくる生徒は好まれない、ということなのだとか。

わたしはどちらかと言うと子供の頃からずっと大人しい方で質問することも発言することも苦手なタイプだったため、いつも必死になって質問を捻出し、努力して質問するようにさえしていました。日本もそうだと思いますが、現代の文化では質問をたくさんする生徒はやる気があって良い印象を持たれますよね!?ましてや、質問をすることでネガティブな印象を持たれるなんて考えたこともありませんでした。ハワイではたくさん質問をする生徒は自ら学んでいないと思われ、先生から嫌われてしまうことさえあるのだそうです。これには驚きましたが、同時に合点もいきました。あー、これか、と。馬の上から矢継ぎ早に先生に質問を投げかけた自分の姿が脳裏に浮かんだのです。ましてや馬は生き物。頭で理解するよりも、自分の身体で感覚を掴む他ないのかもしれません。

これ、考えみたら古くから受け継がれてきた日本の職人の技と同じですよね。見て、聞いて、技を盗む。日本の伝統とも通ずるハワイアンスタイル。乗馬は元々ハワイのものではありませんが、でもハワイという場所で学んでいるからにはやはりハワイアンスタイルはこんなところにも現れているのかもしれません。大事なのは、理論や頭で理解することよりも、目と耳と心で学び五感を使って感じること。そっちのほうが大切ですよ、ということ。自分がどれほど現代の価値観で生きてきたのか、いかに全身と頭と心がそちらの価値観で染まってしまっているのかを感じさせられた出来事でした。

時間はかかるかもしれませんが、ハワイの地で少しずつ心も身体も緩め、五感を働かせて、馬に乗りこなせる日がくるように。「ワイメアの牧場で夕日を見ながら走る」のが目標でしたが、正しくは「ワイメアの牧場で」「夕日を見ながら」「五感を最大限に使って」「馬との一体感を感じながら」走る、その時の感覚を味わいたいのだな、ということがわかりました。馬との一体感を感じながら走れる日を目標に、マイペースでがんばりたいと思います。

Wahine Holo Lio(馬に乗る女性)in Waimea

トゥシグナント 知佐子 

chisakolife.com

東京都出身、2013年米国に移住。オアフ島、ロサンゼルス、ポートランド(OR)を経て現在はハワイ島ヒロ在住。絵画と数秘のサイトmanaarthawaii.com・ハワイ島ヒロAirbnbのサイトairbnb.com/h/hilosunrisesuite 

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