夕焼け新聞11月号掲載『溶岩台地で庭造り』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2021年11月号に掲載されたコラムの全文です。

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去年の今頃、まるで絨毯のように道路一面に広がった赤や黄色の紅葉の上を犬と一緒に歩いたポートランドでの時間を、今ここハワイ島ヒロにて思い出しています。

ポートランドでの暮らしで生まれて初めて経験したこと、それは庭造りでした。正直それまで、自分はずっと植物を育てるのが苦手な部類の人間だと思って生きていました。サボテンも枯らしてしまうぐらいでしたから。それが、ポートランドで初めて「持ち家」というものに暮らして、そこにはちゃんとお庭もあって、手入れをしないわけにはいかなくなってしまったのです。

初めての庭造りを経験した場所がポートランドだったのが幸いでした。植えれば育つという園芸初心者にはなんとも優しい土壌と気候。自分で植えた植物が元気にすくすく育ってくれると嬉しいもので、ポートランドではすぐに庭造りにのめり込みました。庭造りの持つ「構図を考えながらイメージを形にする」という造形的な部分も性に合っていたし、「時間(季節)を考えながら先を見越しつつ段階を踏んで計画的に進める」というプロジェクトマネジメント的な進め方も気に入りました。

そして現在、ハワイ島ヒロの自宅にて、ポートランドのお庭で培った庭造りへの情熱を再び開花させています。わたしが暮らしているヒロという街はハワイ島の東側に位置し、一年を通して雨がよく降り緑の多いエリアです。そのため、日光が大好きなブーゲンビリアやプルメリアといったいわゆる南国を思わせる花々はあまり見かけません。日照時間が足りないのだと思います。その代わり、ヒロはどこもかしこも深く緑が生い茂りその勢いたるやジャングルのようですし、そうかと思うとひっそり奥ゆかしい雰囲気で紫陽花の花がぽっと道端に咲いていたりします。ジャングルを思わせる「圧倒的な緑」と、ハワイ固有種も含めての「地味な花々」、この組み合わせがハワイ島ヒロ側(東側)の植物分布の特徴というか魅力のように個人的には感じています。

そんなヒロの自宅での庭造り。ポートランドのお庭よりもかなり手強いであろうことは簡単に予測がつきました。最近では2018年に大きな噴火があり今現在も活動中のキラウエア火山をはじめ、5つの火山から成る島。そんなハワイ島の大地はどこもかしこも溶岩だらけなのです。自宅の庭も例外ではありません。

そんな溶岩ゴロゴロなお庭でも快適に庭造りを進めることができているのは、ヒロのウォルマートで見つけた日本製の園芸用具、一本の鎌(カマ)のおかげです。このような専門的とも言える日本製の用具が、一般スーパーであるウォルマートで他の園芸商品と並んで雑然と陳列されていたことに先ずは驚きましたが、それだけこの日本文化のひとつである園芸用具がここハワイ島の庭造りになくてはならない道具として一般市民にまで浸透している証なのだとも言え、そのことが日本人として妙に誇らしく、ウォルマートでのこの発見は驚きよりも喜びの気持ちの方が上回りました。この鎌との出会いがなかったら、わたしのハワイ島での庭造りは始まっていませんでした。それほどに、なくてはならない優秀なアイテムなのです。そしてこの鎌を使って、ハイビスカス、紫陽花、ジンジャー、アンスリウムといった庭に彩りを与えてくれる花々や、オヒアレフア、イリマ、ピカケ、タロといったハワイ固有種・在来種の植物を中心に庭造りを進めています。

ウォルマートで入手した日本製の鎌(カマ)

わたしは絵を描くのですが、庭造りは「庭」というある決められた区画(キャンバス)に描く生きた絵画制作のようにも感じています。ある鉢植えを入手して、さてその鉢植えを自宅の庭のどの場所に植えようか、と考え始めてから実際に穴を掘って植えるまでに最低でも2-3日は時間をおきます。その間、「ここがいいかな」と思える場所に先ずは鉢植えを置いてみて、気が向いた時にふと目をやって確認。遠くから見てみたり、近寄って見てみたり、鉢の向きを変えてみたり、時間を置いて、そしてまた確認。そうこうしているうちに一日の中でも日当たりの変化の加減に気付いてより日照時間の長い場所に変更することもありますし、感覚的にも「ここで間違いないな」とか「やっぱりこっちの方がいいな」というメッセージが見える時がやってくるので、そこで初めて鎌を使って穴を掘り始めます。絵画制作の際にも同じような経過、それはキャンバスを眺めながら今後どのように筆を入れていくかを考える時間、即ち「眺めながら待つ時間」を経ながら作業を進めているため、わたしには絵画制作と庭造りがとても似たものに感じられます。絵画との違いは、庭造りは植えた植物がその後時間の経過と共に大きくなったり枯れてしまったりする(変化する)ところですが、そこをまた見越して計画するのが楽しかったりもします。

自宅ベッドルームの壁に描いた壁画 “Big Island of Hawaii”と筆者

庭造りというのはこのように、ちょっとの忍耐と計画性と感性と臨機応変さと、いずれも完璧ではないにせよ人生のあらゆる場面で少しずつ自分の中に蓄積されてきつつある人間性ともいえる要素をフル稼働して臨む「大人な楽しみ」なんだな、と思うに至りました。園芸や盆栽というと、何かお年寄りが楽しむ趣味というイメージがありましたが、それはそうであって然るべきであった、ということです。こんなに時間がかかって結果がすぐに見えないことを、10代20代の若かりし頃、少なくとも当時のわたしにはその魅力の真髄が何たるかを理解するだけの余裕は全くありませんでした。庭造り(園芸)は、大人になった今だからこその楽しみなのです。

ノースウエストは雨の多い季節の到来ですね。そんな冬の間、植物たちはしっかりと土の中で力を蓄えて次の開花に備えています。長く感じがちな季節ですが、そんな「待つ」時間を楽しむのもまた庭造りの醍醐味。わたしもハワイ島で過ごす初めての冬。まだまだ余白の残るハワイ島ヒロの自宅の庭というキャンバスにどのような絵を描いていこうか、思考を巡らせながらゆっくりと楽しんでゆきたいと思います。

裏表紙からの本文続き

トゥシグナント知佐子

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はボストン出身の夫、オレゴンの森の中で生まれたコリーのメス犬、ローカルボーイの子猫2匹と共にハワイ島ヒロ在住。ブログhttps://chisakolife.comにてハワイ島の暮らし、国際結婚、犬猫との生活、自らの絵画制作などについて執筆中。

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