夕焼け新聞10月号掲載『秋の夜長に』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2022年10月号に掲載されたコラムの全文です。

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世界で一番宇宙に近い場所、そう言われる場所が此処ハワイ島にあります。標高4,205メートル、ハワイ最高峰のマウナケアです。

マウナケアはハワイ語で「白い山」という意味を持つ、ハワイで唯一山頂に雪を頂く美しい山。海から隆起した火山のため、海底からの距離を測った場合の高さはなんと10,203メートルに。これは陸地にふもとがある標高8,848メートルのエベレストを抜いて世界一の高さで、マウナケアが「世界で一番宇宙に近い場所」と言われる所以でもあります。

そんなマウナケアの山頂付近は天候が安定し空気が大変澄んでおり、日本の「すばる」をはじめ各国の天文台が並ぶ天体観測地としても有名ですが、実はマウナケア山頂まで行かずとも息を呑むような美しい星空をハワイ島では見ることができます。

先日、ハワイ火山国立公園近くのお宿に泊まった際も満点の星空に恵まれました。ミルキーウェイ(天の川)を見上げながら、ふと日本の天の川伝説のことを思い出しました。織姫様と彦星様が年に一度、七夕の日にだけ逢瀬が許されたという悲恋のお話し。季節外れではありますが、お話の詳細を思い出せなかったのでインターネットで調べてみると・・・

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昔々あるところに、織姫というとても働き者の娘がいました。神様の着物を織るのが仕事で、毎日機織りに精を出していました。また、彦星という、これまた働き者の青年がいました。彦星は牛使いで一生懸命に畑仕事をしていました。

この二人が出会い、一瞬で恋に落ちました。二人はめでたく結婚することになりました。ところが二人は結婚すると甘い新婚生活にうつつを抜かしてしまい、全く働かなくなってしまいました。

織姫が神様の着物を織るのをやめたので、神様の着物はボロボロになってしまいました。彦星が牛の世話をやめたので、牛はやせ細り畑も荒れてしまいました。

それに怒った神様が、二人を天の川の両岸に引き離してしまいました。すると二人は悲しみにくれ、やつれ果ててしまったので見かねた神様が「真面目に働くのなら」ということで七夕の日だけ二人が会えるようにしました。

7月7日に雨が降ると、天の川が増水して川が渡れなくなってしまうので、二人はその日が晴れるよう願いながら1年に1度だけの逢瀬を楽しみにしているのです。

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このように改めて七夕伝説を一通りおさらいしてみると、今度はこれにとてもよく似たハワイの神話が頭に思い浮かびました。ナウパカの伝説です。

ナウパカというのはハワイではよく見かける植物なのですが、花びらが半分しかなくて、まるで2つに引き裂かれてしまったような形をしています。ナウパカには2つの種類があって、1つは海の近くで育つビーチナウパカ、もう1つは山間部で育つマウンテンナウパカ。

ビーチナウパカ(左)とマウンテンナウパカ(右)

ナウパカの伝説は、ハワイ島キラウエア火山に住むと言われる女神ペレの激しい怒りによって永遠に引き裂かれてしまった恋人たちの物語です。

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ペレは恋人がいる若い男性を気に入り、自ら美しい女性に姿を変えて彼の前に現れました。しかし男性は姿を変えたペレには脇目も触れず、恋人たちは切っても切れないままでした。

ペレは激怒して男性を山に追いかけ、彼に向かって燃えるような溶岩を投げつけました。そんな様子を見てペレの優しい姉妹は同情し、男性を死から救うために彼を山のナウパカに変えました。

それからペレは女性を海に追いかけました。再びペレの姉妹の女神が介入し、彼女を浜のナウパカに変えました。

そして、二人は今日もそのままの姿で存在しています。男性はマウンテンナウパカとして山に。女性はビーチナウパカとして海辺に。それぞれが半分の花として咲き、二人が会えることはもう二度とありません。

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こうやって日本とハワイの2つの伝説を比べてみると、いずれも神様の怒りが二人の恋人を引き裂いて姿を変えられてしまうお話ですが、明らかに異なる点は各々の神様の怒りの原因です。日本の神様は「真面目に働かなくなった」ことに腹を立てたのに対し、ハワイの神様は嫉妬で怒り狂った、というところが各々の民族性を現してもいるようで面白いところ。逆に共通点としては、いずれの伝説にも「神様の同情」が要素として混ざっているところが興味深いですが、最終的には日本の神様が一年に一度の逢瀬を許したのに対し、ハワイの神様は二人を永遠に引き裂いた、というわけです。

世界各地で古くから伝わる神話や伝説というものは、遠い昔には子供を含めたその土地の人々への教育的役割も担っていたことでしょう。

日本の神様が織姫と彦星に年に一度の逢瀬を許してくれたところに、日本民族はどこか神様への親近感を感じてより神を慕う気持ちを深めたのかもしれません。一方ハワイの女神ペレは、愛し合う男女を永遠に引き裂いてしまうほど激しい気性の持ち主。これにより、ハワイの人々は「ペレを怒らせたら大変なことになるぞ」とペレ(神)への畏敬の念をより強めたのかもしれません。

いずれにせよ、なんとも切ない悲恋のお話。ハワイ島の自然に囲まれて暮らしていると、幼い頃に夜空を見上げながら思いを馳せた天の川の織姫様と彦星様の面影を、また近くに感じられるような気がします。

秋の夜長のこの季節、よく晴れた新月の晩には外へ出て、夜空を見上げてみてはいかがでしょう。現在お住まいの場所からも、もしかするとミルキーウェイが見渡せるかもしれません。

Milky Way (Photo by Cory D’Orazio)

※写真提供

Cory D’Orazio

www.corydorazio.com/

トゥシグナント 知佐子 

www.chisakolife.com

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はハワイ島ヒロ在住。ハワイ島ヒロの自宅1階を全面改装したお宿をAirbnbにて運営中。www.airbnb.com/h/hilosunrisesuite

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