夕焼け新聞9月号掲載『ハワイ島移住から一年』

米国オレゴン州月刊コミュニティ紙『夕焼け新聞』2022年9月号に掲載されたコラムの全文です。

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オレゴン州ポートランドで暮らした築百年の大好きな黄色いお家にお別れをして、ハワイ島ヒロへと移住してちょうど一年が経過しました。

ロサンゼルスからポートランドへ引っ越した数ヶ月後にコロナウィルスの流行が始まり、その約2年後の未だコロナ禍が明け切らない中、今度はポートランドからハワイ島へと引越しをしました。僅か2年足らずのポートランドでの生活はそのほとんどがコロナ禍真只中、黄色いお家の中と犬の散歩で毎日のように訪れたMount Tabor Parkで過ごした時間が圧倒的に長く、それはそれでとても幸せな面影でわたしの中に残っています。

ただひとつ、ポートランドでやり残したことがあります。それは、コミュニティへの参加でした。東京、ホノルル、ロサンゼルスとそれまでに暮らした街ではとにかく仕事やらプライベートやら自分のことと生活を築くことに精一杯で、「コミュニティの活動に参加する」だとか「コミュニティに根付く」といった意識を持つ間もありませんでした。ポートランドへ引っ越した際にようやくそれができそうな、そんな予感がしていたのです。具体的に言うと、ポートランド日本庭園の美しさに魅せられてそこでのボランティア活動を考えていたのですが、結局それもコロナで果たせずじまいでした。ポートランドで果たすことができた唯一と言っていい社会参加がこの『夕焼け新聞』へのエッセイ執筆というお仕事。それがポートランドを離れた今でもこうして続けることができているなんて、不思議なご縁のつながりに感謝の気持ちでいっぱいで、とにかく毎回心を込めて書かせていただいています。

そんなポートランドでの生活を経て、約一年前にここハワイ島ヒロでの生活がスタート。この一年を振り返ると、少しずつではありますが確実にコミュニティの中に入って行けているのが感じられとても嬉しいです。念願叶って、であります。

ひとつ目の活動としては、ヒロにあるホスピスでのボランティア活動です。もともと「死」をタブー視したり非日常なものとして遠ざけたりするのではなく「生」の一部として考える死生学に興味があり、10年ほど前からターミナルケアやスピリチュアルケア、またホスピスに関する本を読んでは「いつか何らかの形で関わることができれば」と思っていたのが、ここへきてホスピス・ボランティアという形で実現することができました。ハワイ島、特に島の東側(ヒロ側)には第二次大戦前後にハワイ島へ移民して来られた日系移民一世の方が少なくなく、ボランティアで日本語を使える機会があることには驚きました。自分にできるペースでできることで関わらせていただいています。

もう一つ、とても強いヒロのコミュニティとの繋がりを感じる場といえば、最近入会させていただいたフラのハーラウです。ハーラウというのはハワイ語で、カヌーを置いておく長い「家」のこと。フラハーラウとは言わばフラスクールのことです。毎年4月にハワイ島ヒロで開催されるフラの祭典「メリー・モナーク・フェスティバル」を初めて会場で見る機会に恵まれ、そこである地元ハーラウの踊りを見てとても好きになり、5月のメイデイのイベントで再度パフォーマンスを拝見してやっぱり好きだと確信し、クム(フラの師匠の意)に連絡を取り入会させていただきました。

クラスが始まってみると、確かにフラという踊りを習うわけですが、何かもっととてつもなく広範囲のことを学ばせてもらっている感じが毎回します。古典フラと現代フラという踊りを中心に、チャント、ハワイ語、ハワイの植物や自然や地理、衣装作りといったハワイ文化全般。そしてそれら全ての根底にある「アロハの心」とでも言うような、さらにもっと大きな何か。ハーラウのベテランメンバーたちは、コミュニティのイベントに毎週末のように参加してはその度に美しい手作りの衣装や生花の髪飾りを身に着けてフラを捧げます。ひとつひとつに目眩がするほどの労力と時間と愛情をかけて。スピードと効率とお金重視の現代社会からすると、真逆の世界がそこにはきちんと残っていました。

そうした深くて広いフラの世界は一朝一夕に身につくようなものでは到底なく、ある意味ハーラウへの強いコミットメントとでも言うべき心構えの元、長い時間と共に身につけ育んでゆくものだということを感じています。割りとなんでも要領よくすんなりできてしまうタイプなのもあって、今回のように他のメンバーの踊りに全く着いて行けなくて呆然と立ち尽くす経験は初めてと言ってもいいですし、成果を早く見たい忙しい都会暮らしが板に付いてしまっている身としてはなかなかに新鮮な感覚です。でもこれこそが「コミュニティに根付いていく」というわたしがやりたかったことそのものなのだろうなぁ、と思うのです。

ある地で、既に長い年月をかけて築かれてきたコミュニティの仲間に入れてもらい、そこへ根付いてゆくということ。そのためには、自分が参加させてもらう団体なり催事なり場なりへのそれなりの時をかけたコミットメントがあってこそ、段階を経ながらようやく少しずつ信頼関係というものが築かれてゆくのだろうなぁ、と。そこを焦っても仕方がない、これがわたしのやりたかったことなのだから、とそんなことを感じています。

以前はどちらかと言うと何かにコミットするのはちょっと気が引けるというか、なるべくだったらあまりコミットせずに適度な距離を置いて、という感覚で物事と向き合うことが多かった気がします。今ようやく、それ(コミットすること)ができる、そうしたいと思える自分になってきたことが嬉しくもあり、その過程にある“うまくできない自分”もまた楽しみながら、ゆっくりと地元ヒロの街のコミュニティに馴染んでゆきたいなと思っています。

日暮れ時のダウンタウン・ヒロ

トゥシグナント 知佐子 

https://chisakolife.com

東京都出身、2013年米国に移住。ハワイ州オアフ島、カリフォルニア州ロサンゼルス、オレゴン州ポートランドを経て現在はハワイ島ヒロ在住。ハワイ島ヒロの自宅1階を全面改装したお宿をAirbnbにて運営中。https://airbnb.com/h/hilosunrisesuite 

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